【中編】ブエノスアイレス感想「愛情って何でしょうね…(と考えるキモイ自分に出会えます)」【ネタバレ注意】
難しや難しやあ~
<計算の答え合わせができない映画>
「サスペリア2/紅い深淵」の反省を踏まえてお送りしたいと思います。
「こうしてこうなってこう!起承転結!1+1=2!そしてこんな主張があります!」みたいな映画も大好きですが、
「え~?う~んと、1+1は0より少し多いかもしれない少ないかもしれないケセラセラ」みたいなダッラダッラした映画が急に観たくなって、
何も起こることはないただ日常をダラ~っとうつしただけの映画「ブエノスアイレス」をン十年ぶりに観ました。
面白いことに、若かった時より中年になった今のほうがウォン・カーウァイがしっくりくる私です(物語を追う体力が無くなったともいえる)。
と言っても私はカーウァイの信者ではありません。むしろ苦手なところが多々ある監督だったりします。
「恋する惑星」で何度も何度もかかるママス&パパスの「夢のカリフォルニア」には発狂しそうになりました。
可愛いフェイ・ウォンが同じ曲を大量音で繰り返しかけるので何かの人体実験させられてるのかと思った。
米ドラマの「HOMELAND」でCIAが拷問として「デスメタルをノンストップで聞かせる」という手法を取っていたでしょう。アレです。
それに、
「天使の涙」で煙草吸いながらご飯食べてるシーンは冗談ではなく真剣に吐きそうになりました。
おおおっおえ~~~!!_| ̄|○、;'.・ オェェェェェ
おかしいなあ、私はアル中カラカラの死のトライアングル喰いは平気なのに・・・。
と、そんななかで観た「ブエノスアイレス」は大昔に観たので内容はほぼ覚えておらず、初見のように楽しめましたね。
(因みに間違えてメイキングの「ブエノスアイレス摂氏零度」のほうを先に観てしまいました。)
<跳んだカップル>
南米はええですなあ、こうエキゾチックで。自己破滅街道まっしぐら幻想がありますやんか、
バロウズのような・・・。
と言ったのかどうかは知らんが二人の関係を「やり直す」ためにアルゼンチンに向かった一組のカップルのお話ですな。
腐れ縁の恋人ともう一度なんとかやり直す為にアルゼンチンに行く・・・
なかなかブッ跳んだ発想をもつカップルだと思います。
アジアの文化と明らかに異なる国に行くとは・・・。ストレス負荷が半端ないと思うのですが・・・。喧嘩が絶えないのであろう腐れ縁の恋人とだよ?
う~ん。それとも。
香港のゲイの人たちにとって香港よりアルゼンチンのほうが過ごしやすいのだろうか?
少々気になってグーグル先生でざっと大雑把に調べたところ、「う~ん」て感じでした。
あまり変わらない、かなあ。どちらも良いニュースもあれば悪いニュースもあるって感じで。
(アルゼンチンは時代を追うごとに状況は良くなっていく可能性が大きいですけど、
香港は今現在様子見ですし・・・)
2014年のネット記事では中南米の中でもアルゼンチンはゲイの人にとって住みやすい国との調査報告が出ていますが(日本よりランキングが断然上)、1990年代後半のアルゼンチンや香港はどうだったんでしょうね。
メイキングでは(恐らく)アルゼンチンに着いて間もない頃にトニーとレスリーの両名がタンゴを練習しているので、「何も決めていなかった」と言い伝えられるカーワァイ監督の頭の中では「主人公の二人がタンゴを踊る」という構想だけはあったのかもしれません。
(この後数か月も帰国できないことを知る由もなかったスタッフとキャスト達なのであった・・・)
<何ビザ?!>
しかも、アルゼンチンで喧嘩別れした二人のお金をレスリーが使い込んでしまって、トニーは香港に帰れないという。
(倉田真由美先生のダメンズ・ウォーカー風のレスリー・チャン)
そのせいでトニーは帰国するための資金を稼ぐためにとあるバルのドアマンのアルバイトに明け暮れるのであった・・・。
この二人何のビザで入国してきたの!?観光ビザ!?いつまでこの国にいるんだ!?
不法滞在!??
よくそんなんでアパート借りれたね!??
ノン!ノン!ノンシャラン!!(怒)
そんな野暮なことは言うんじゃねえよ!!
ここはウォン・カーワァイ・ワールドだぞ!!
人は恋をしてすれ違ってまた恋をしてすれ違うんだよ!!
わかったか。
なっ・・・!?何を・・・っ!
台湾人観光客が詰めかけて、同時に白人の金持ちパパがアジア人の恋人を連れて行くバルなんて変だと・・・っ!!リアリティがないっ???!夢うつつな設定過ぎるだと!?!
しかもそこでレスリーとトニーが再会するって変・・・!!?アルゼンチン広いで!?だと!?
馬鹿クソ野郎!ウンコして寝な!
(便秘は万病の元だぜ!)
あのな!
人は恋をしてすれ違ってまた恋をしてすれ違うんだよ!!
そうこれが「恋する惑星」、「天使の涙」とぶっ続けにウォン・カーワァイに浸ってしまった人の末路です。
(この笑顔、推せる。)
<息が詰まる>
この映画はある意味、「自分以外の人間と一緒に暮らす苦労」をも描いている気がしますね。
気がするだけですけど。
この映画は我々に問いかけてますよ。
「はたしてお前は他人と同じ屋根の下で生活ができるかな?」て。
親友でも難しいのに、恋人とか夫婦とかそれ以上の気苦労がありますよ。「性」の問題が絡んできますしね。
「えぇ~?恋人か夫婦なんて愛し合ってる二人なんだから一緒に暮らすなんて幸せなはず!」
なんて思ってるやつは全員しばく。
しばき倒す。
まさかこの令和の時代にそんなお花畑の奴はおるまいな?
そりゃあ、一緒に笑いあったり楽しいひと時もありますがな。
しかし、その楽しいひと時を過ごすために恐ろしいほどの努力がありますんやで双方に。
ましてや、「別れたりくっついたり別れたり」を延々と繰り返しているこのカップルが…
こんな狭い部屋で!!!!
想像するだけで恐ろしいわ!!パーソナル・スペースどこ!??息が詰まるだろ!!
(はい、サブタイトル回収しました)
そのうえ、トニー・レオンはレスリー・チャンが外にふらふら出歩かせたくないからといって、煙草をカートン買いするわけです。
(在庫大量補充完了。)
確かに本作のレスリー・チャンは我儘で自己中かもしれません…
しかし、トニー・レオンも大概にせえ!!
(タバコを投げ飛ばすレスリー。私だったらもっと暴れる自信があります!)
レスリーを外に出したくない、かといって甘えてきたら「あっちへ行けよ!」と追い返す(といっても2歩先のベッドにだが)。
レスリーが反発して少しでも散歩に出掛けたら悲しい顔をするトニー・レオン30代。
キエェェェェェエエエエエエ!めんどくせーー!!
・・・あれ、もしかしたらトニー・レオンも大概じゃないか?あれか、ヤンデレというやつか?
ツンデレ・ヤンデレの配合ハイブリットなトニー・レオン。
トニー・レオンだから許される。
私やあなたが真似をしたら孤立する確率1000%。
いやあ、ほんと、こんな狭い部屋でねえ、一日中じっとしてるなんて。そりゃあ散歩にでも出掛けたくなるのは当然ですよ。
当然ですがプレステも無いんですよ?
暇つぶしといったら小さな古いテレビだけなんです。
海外に滞在したことのある人ならわかると思うんですけど、異国のテレビ見ても面白くはないです。何言ってるか分かりませんからね(新鮮なのは最初のうちだけ)。
しかし、煙草をくゆらしながら異国のテレビ番組をアンニュイに観る。
それがウォン・カーワァイ・ワールドなのであります。
<屋上で二人ゴロゴロ>
先程申し上げたとおり、私は間違ってメイキングのほうを先に観たのですが、この
ポスターのこれ↓
この場面がいつ本編に出てくるのかなあわくわくと待っていたところ、
「完」の文字が。
え、このシーンって本編ではまるまるカット!???ポスターになってるのに!!??
というわけで、屋上で二人転がっているこのシーンはメイキングの「ブエノスアイレス摂氏零度」に入ってますよ、皆さん。
名シーンだと思うんだが。そこカットしちゃう?ふぅ~ん・・・
そんなことを言い出したらシャーリー・クワン姐さんはどうなる。全シーンカットだぞ。
(メイキングから観たので大変驚きました)
(シーンをバシバシ切るので、
filmarksでは「ウォン・カーワァイは映画業界の肉屋」と云われてました。)
(カーワァイ監督のイメージ図。)
まあでも、彼女は混乱してる現場と苦悩している監督を直に見ているはずだから、
出来上がった本編を観ても納得したのかもしれませんね。
その分、メイキングでは沢山写っているし。
シャーリー・クワンがタクシーの窓から腕をダラっと出して、チャン・チェンとそれ違うシーンもとても美しい。
トータルの撮影時間が67時間?というハナシを聞いたのですが、3時間ぐらいにまとめて「ブエノスアイレス完全版」としてソフト販売してくれないものかしら?
そこそこ売れると思うのだが。
トニー・レオンもせっかくボクシングで身体を鍛えていたのになあ。
(↑設定&シーンまるごとカット。腹筋バッキバキの理由がわかった)
もしくはDVD・blu-rayボックスにして全シーン収録しちゃおっか!
(発売元大赤字覚悟)
<観る年齢によってだいぶ印象が違うぜ>
と、思っちゃいましたね特に今作品は。
内容の記憶がほぼ全消えだったのだけれど、若いころの私は「レスリー扮するダメンズに振り回される可哀想なトニー・レオン」という印象が強く残っているのは覚えてたんですが。
再見するとなかなかどうして、トニーも面倒くさい男ですね。
(このシーン、ワイン吞みながら泣きました。失恋は人間性が破壊されますよ。)
トニー・レオンが胸中でつぶやくじゃないですか。
「(レスリー・チャンの)怪我が治らければ良いと思っていた。だって幸せだったから」て。
毎晩レストランの慌ただしい厨房から電話かけてましたね。
「夕飯何食べたい?」て。
(私が同僚だったら嫌だな。仕事しろ~)
あの電話のシーン、「トニー・レオン、滅茶苦茶幸せなんだろな」て観てる側にも伝わりますよね。
けどね、行動だけでは伝わりきらないんですよ!
(作中のトニー・レオンはきっと口下手なんでしょうね。行動で示すタイプなんでしょう。レスリーをボコった白人パパを酒瓶で襲撃してたし。それってすごい愛情を感じるのだが)
言葉で相手に表現しないと!!たまには!!ねっ!?
(中年の叫び)
まあ、言葉で伝えたところで作中のレスリー・チャンの心に響くかどうかは別問題ですけども。
我儘・自己中な人と面倒くさい人の悲喜こもごもですわあ。
しかしこれが美しいんですなあ。
歳を重ねてから本作を観ていると「二人の他人同士がひとつ屋根の下で暮らす」て、奇跡に近いなと思いましたねぁ~
そのことに気づけただけでも、私もだいぶ大人になったな(なったはず)と感慨深かったです。
また20年後とかにでも観直したい作品。その時に観たらまた感想が変わっているでしょう。そんな映画。
おわり
と、云いたいところだが、先日、
ブックオフでトニー・レオンのムック本を見つけまして即行で購入いたしました。
(700円でした。)
ペラペラとページを舐めるようにめくっていくと、
トニーの筆跡が!!
見てください!隙間だらけのこのスカスカで風通しが抜群の癖字を!!
そんなトニーが書く"自由"は最高なり!!
追記:「中編」とは・・・
怪抱ぽんず