自恃があればよい

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【長編】サスペリア2/紅い深淵の感想「長編ブログはもうこりごり」【ネタバレ注意】

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アルジェント世界の警察はいつものんびりとしている為、被害が拡大するのであった。

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<そもそも本当に女優だったのか>

鑑賞中は有無を言わせぬアルジェント・パワー!!に力づくで気圧されているので何も考えずに惹きこまれてしまうのですが(そこがアルジェントの凄いところ)、観終わってみると真犯人であるお母さんの動機が私的には謎でしたね。

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テレパシストの女性に心の闇の中を覗き込まれてしまったのが発端なのでしょうか?(お母さんもそんなイベントに行かなければええのんに!)

まあ、行かなければストーリーが進まないので致し方ないですが。

なので、私は思いました。あのお母さんは夫だけでなく過去に人を何名か殺しているのでは?と…。

主人公のマークがナウシカの邪悪版みたいな、もといヘンリー・ダーガーの絵みたいな例のあの唄のレコードを購入したあとにジョルダーニ教授も言っていました。

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「犯人は心に問題があり、発作的な衝動に襲われ、無意識で殺人を犯している。何かのきっかけで自制が効かないときだけ」

私からすると、あのお母さんは常に自制が効いていないのでは…?と感じさせるのですが…

自制が効いていない、というより夢想の世界に生きているのかな?

夢の中で生きているからこそピアニストとして名を揚げているマークのことを何度も「技術師」というのでしょうか。

バーでピアノを弾いているしがないピアニストの息子のカルロより格上の存在であるマークを認めたくないのだと思いました。

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(ナイトホークスのような絵になるバー)

「技術師」という職業を何となく見下している感じがします。お母さんはきっとプライドも高いはず。

元女優ですしね…つって…

いやいや本当に女優だったのか?

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(私が真っ先に思い浮かべるザ・女優という写真を貼りました。ネタが古くて申し訳ないです。)


主人公のマークはカルロの自宅の壁に飾られている何枚ものお母さんの女優時代の写真を見てこう言います。

「(あなたの出演している)映画を拝見していません。」

確かに、端役過ぎて見覚えがない無名の女優だったのかもしれません。

けれども、物語の終盤でお母さんの口から事件の真相が語られますが・・・

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(台詞で語られるのでなく映像で語るのが好き~)

カルロ父はお母さんに「病院に行こう」と言い、お母さんはとても嫌がります。カルロ父に身体を触れられるのも拒絶します。かなりの嫌悪感です。
(そんな夫婦は珍しくもないかもしれませんが笑)

この「病院」とは恐らく精神病院だと思います。
(字幕で観たので、もしかしたら台詞で精神病院かどうか言っていたら申し訳ないです。)

つまり、カルロが子供のころにはすでに病んでいる。
そして恐らく、カルロ父殺害後も通院はしていない。
症状が悪化する。
自分のなかの夢想の世界が強固になる。
さらに症状が悪化して冷静な判断がしていられなくなる。

冒頭でテレパシストがお母さんの心の中を読んでしまいますが、普通の精神状態であれば、
(殺人鬼に普通の精神状態なんて無いだろうけど笑)

『警察にチクったところで誰も超能力なんて信じないさ~♪』でフツーは終わりますが、お母さんはテレパシストを殺してしまいます。冷静な判断ができない証拠です。

このテレパシストがお母さんのことを論文に書こうとも本として出版しようとも、一部の愛好家に愛でられるだけであって、警察は動かんでしょう。

お母さんの心の病はかなり重いですね。

こんな人が今までずっと人も殺さずに過ごせてきたのでしょうか。自分の夢の世界を
脅かそうとする人間は誰だって殺してきたのではないですか?

テレパシストも言っています。

「人殺しの思念が・・・」「そしてまた殺す」

お母さんが元女優でなければ「彼女が本当に女優かどうか」面白半分で調べようとした人間とか、

本当に元女優であったとしても「あれ?旦那どうしたの?」と根掘り葉掘り訊いてくる人間とか、

殺したんじゃないですかね(棒)。

それとも、
無名女優時代にすでに病んでたのか。

なかなか芽が出ない自分に焦り、さらに結婚して女優を辞めさせられたのをキッカケに病みだしたのか。

そもそも自分のことを女優などと言い出しそう振舞いだしたからカルロ父が心配したのか。

どっちでしょうか?

女優っぽい写真を撮るなんてア〇〇・ス〇ジ〇みたいなところに行って、相応の値段を支払えばいくらでも撮れるでしょうしね。
カルロ・ファミリーは豪邸に住んでいましたからお金はあるはずですし。

お母さんの『女優時代(もしくは一般人)』~『結婚するまで』~『結婚してから』の時系列でもう一本のホラー映画が出来そうです。

<女>

この「サスペリア2」は『女』の映画なのかなあ~と思いました。

「いやいや、アルジェントの映画って女ばかりやん!」て、そうじゃなくて。

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この作品の有名どころって、この「シャー!シャー!シャー!」と走ってくる人形と、

 

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この鏡のトリックではないでしょうか!?

私はこの作品を初見で観たときには気づきませんでした。
このブログを始めるにあたって観直すときに冒頭から注意して観たのですが・・・

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誰?

この顔を見て、初登場したお母さんを見て二つの顔が一つに繋がった人っていますか?

私には綺麗な若い女性に見えました。

私思うのです。お母さんがいう「女優」という職業って、いまだに「若さ」を求められる職業ですよね。いまだにそうです。少しずつ「自然に歳を重ねようじゃあるまいか!」という動きも見受けられますが…芸能界ってまだまだそんな感じじゃないですよね?皆さんはどう思いますか?
不自然な顔のハリウッド女優なんてゴロゴロいますよね。

女は「老いてはいけない」という世間からの呪い。今よりこの作品が発表された当時のほうがその呪いも強かったことでしょう。

(追記:いや、現代のほうがSNSの普及によってその呪いは強化したかもしれん)

お母さんの職業を女優にしたのも意味付けがありそうではないですか?

 

終盤、鏡のトリックに気づいたマークの回想場面で引いているカメラがギュインっ!と例の綺麗な女性の顔に一気に近寄ります。

するとそこに映っていたのは綺麗な若い女性でなく厚化粧したお母さんでした。

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厚化粧イコール気の触れた人との表現とも見受けられますが。

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「鏡」。物語の冒頭でも鏡は出てきます。テレパシストのイベント会場の洗面所です。
そこの鏡は汚れていてお母さんの顔は見えません。

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もちろん、犯人の顔を見せるわけにはいかないストーリーだというのもありますが、鏡というのは毎日毎日老いていく自分を確認できるアイテムでもありますよね。

アルジェントがお母さんを元女優にしたのは『女にとっての老いる/老いていってしまうという苦痛』を強調したかったからじゃないかあ~・・・??

 

それに、やはりヒロインのジャンナの存在。

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(マークとジャンナのやり取りが誠に微笑ましい)

彼女、物語内でフェミニズムを説いてますよね?

私がこの「サスペリア2」を観たときにはすでにDVDでしたが、私自身無知な奴でしたが今回改めて観直したときに驚きました。

そして分かりやすくそれに反発するマーク。

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しかし腕相撲。

f:id:jijiarex:20220110153424j:plainそして腕相撲に勝つ。笑

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とても分かりやすいです。

その他に分かりやすいのは、かの車ですよね。笑

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(この車、可愛すぎる。免許持ってないけど欲しい。いや、この車のためなら免許とる。)

マークが座る助手席が壊れていて、ジャンナのほうが上から見下ろす形になっている。

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お母さんとジャンナを見ていると、昨今話題になっている女性差別ジェンダー関連の社会問題を思い出さずにはいられません。

後記しますが、この作品にはゲイの人物も出てきます。ゲイとフェミニストが出てくる映画「サスペリア2」。
今では当たり前ですが、発表当時のイタリアではどんな受け止められかたをしたのでしょうか。

 

当時のアルジェントは何か思うところがあったのかな??

 

<主人公マーク>

そんなアンチ・フェミのマークかと思えば・・・笑、

なんだかんだと、ジャンナと楽しそうに協力して事件の捜査を進めていきます。

ジャンナにも反論はしますが、自分より「下」として扱いません。彼女の意見も聞くし、彼と寝たからといってあっけからんとしているジャンナに対して、「俺の言うことを聞け」と彼氏面もしません。

むしろ、ジャンナが「レバノンに逃げよう!」と言ったときには、「そうだ!レバノンに!」と彼女の言うことを聞きます。

マークって、結局相手を受け入れるんですよね。

ゲイのカルロに対してもそうです。

カルロの恋人のリッチと初対面のときには驚いたものの、「同性愛なんて気持ち悪い!」とはなりません。

カルロがマークとの距離を近づけても、身体に触れても平気なようです。それよりも真剣に友人のことを心配しています。

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時代の空気だったのかもしれませんが、「そろそろマッチョ思想なんてやめない?」とのアルジェントの声が聞こえてきそうです。

そういえばマークって、ふとした瞬間アルジェントに似てませんか?

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ダリオ・アルジェントの有名なエピソードの一つとして、「被害者を殺害する犯人の手を自ら演じている」というものがありますね。

本作ももしそうであれば、殺人鬼と事件の解明者に己を重ね合したと私は考えちゃいました・・・。

アルジェントは巷からはよく「変態!」といわれてますが笑、むしろ人の心の闇を知りたい探究者なのかもしれませんよね。

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(本当かな~?)

 

<哀れなカルロ>

カルロがアル中なのって、「自分がゲイだと認められない」のではなくて、

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フェリーニの「サテリコン」のごとき美しきリッチさん。カルロの恋人。恋人がアル中ってけっこう苦労していると思われる。)

あのオカンだからですよね。
カルロいわく「俺がオカマ(字幕のまま)だなんて驚いただろ?」なんて自虐的にマークに言いますが、彼がアルコール依存症になった原因は「ピアニストとして自立できない自分」や「自分は同性愛者」でなく、ほぼ100%の確率でお母さんが原因でしょうね。

お母さんの夢の世界ではマークは技術師なので、自分の息子カルロのことは「立派なピアニストで当然ヘテロで可愛い彼女がいてもうすぐ孫ができる」ぐらいの設定かもしれません。
そんな彼女に恋人のリッチさんを紹介はできないでしょう。

というかオカンは人殺しだし。というかオトンを殺した狂っているオカンを独り暮らしさせるわけにもいかず(きっとお母さんのことは愛していると思う。演歌だわ)、同居って…。

酒を吞まないとやってられません。

そんなカルロは私のなかでは一番悲しいキャラクター。
マンマを庇ったばかりにあんな壮絶な死に方を…。

ああーー!

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通りすがりのトラックの荷台から出てる針金?に引っかかるカルロ…。
このトラックの会社の危機管理はどないなっとんねん。

カルロの死に様はこの作品の見どころのひとつです。

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頭があぶなーーーーい!!予想通りになれーー!ホラー映画ファンとしての葛藤が…

もうひとつ見どころといえば・・・


<唐突にラスト>

ラストも凄まじいですよね。画像は貼れないです笑。しかも、唐突に終わります。

あの終わり方かっこいいですよね。『後日談』とかも一切なく笑。潔い。

私はアルジェントの全作品を観たわけではないのですが、観た作品すべて唐突に終わる
のですが笑。

スタンダール・シンドローム」とか笑。「え?これで終わり?」みたいな。

そして、本作品のラスト、冒頭のテレパシストとの対比が「おぉっ!?」と思いました。

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<じつはオシャレな映画>

キ〇ガイのオカンに支配されているような本作ですが、ところがどっこい「サスペリア2」はファッション雑誌で特集されるようなシャレ乙な映画だったのです!

 

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(テレパシストの自宅はインテリアに凝っていましたね)


ダリア・ニコロディ演じるジャンナの衣装も可愛いものばかりでした。

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(ニコロディ:サスペリアとアーシアを産み落とした偉大なる魔女。この人がニコニコと素直にヒロインを演じていると笑顔の裏に何かあるんじゃないかとひねくれた見方をしてしまう。)

 

マークに「女というものは…」と小馬鹿にされて爆笑するシーンがあるのですが、笑い声が滅茶苦茶悪い魔女っぽくて大変良かった。

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(でもまあマークとジャンナって冒頭から相思相愛なんだけどね。傍から見てると)

 

そうそう!殺人鬼の手袋までも「OSHARE!」と思いませんでしたか?

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(この金具のリングが着いた手袋欲しい)

建物、コマの中の画のバランス等々、美的センスが抜群なのでございますよね。

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<細かいディテールの積み重ね>

とこのように、本作は細かい細かい多様なディテールの積み重ねで成り立っているのですね。

アルジェントって「雑に撮っているのかなあ」なんて思わせるようなところもありますが(失礼すぎ)、そんなこたぁないです。

首吊り人形、ビー玉・・・

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(死にに来る鳥ーーー!!)

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とか、皆だいすきこの少女。

(みんな好きだろ)

この少女にピンを刺されたトカゲ・・・

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(この少女は将来有望)

 

あと、こういうシーンも大好きでした。

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何気ないコマの隅に不気味な絵が貼ってある。
というより、学校(レオナルド・ダヴィンチ学校!!)の資料室で見た変な絵を自分で描き直す、って神絵師ですね。

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ああ、あと後のインフェルノを思い起こさせる地下室の溜った水なんかもありました。

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<最後に>

妄言がすさまじくて、自分は自分を怖いです。

私は人からよく「思い込みが激しい」「視野をもっと広くもて」と注意されます。
私のこの視界の狭さ、恐ろしいです。カルロのお母さんのことをとやかく言えません。

周囲の人間からよく似た忠告をうけるそこのあなた、「サスペリア2」はいかがでしょうか。

(追記2:こういった長編記事は最初で最後であることを願う。疲れた。死ぬ)

 

f:id:jijiarex:20211221145135p:plain怪抱ぽんず